MainStageユーザガイド
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ボコーダーの歴史
ボコーダーは1930年代に通信業界で誕生しました。
ニュージャージー州のベル研究所で研究を重ねていた物理学者、ホーマー・ダドリー(Homer Dudley)は、実験用マシンとしてボコーダー(「ボイスエンコーダー」の略語)を開発しました。銅製の電話回線で通信内容が漏れないようにするため、音声信号を圧縮する方式を実験しようとしたのです。
これは次のような分析装置と人工音声の合成装置を組み合わせたものでした。
Parallel bandpass vocoder: 音声分析装置および再合成装置。
Vocoder speech synthesizer: 声の合成装置。このバルブ駆動方式の機械は、人が操作していました。2組のキーボードと、子音を再生するボタン、発信周波数制御用のペダル、母音の有無を手首の操作で切り替える棒が付いていました。
分析装置は、いくつもの狭帯域フィルタを使って音声信号を周波数スペクトルに分解し、その連続する音サンプルのエネルギーレベルを測定するようになっていました。時間の経過に伴い周波数が変化する様子をグラフ表示することもできました。
合成装置はその逆の処理を行いました。すなわち、分析装置から得られたデータをいくつもの分析フィルタに加え、これによってノイズジェネレータを制御しました。この組み合わせによって音声信号を合成したのです。
第二次世界大戦中、ボコーダー(当時は「ボイスエンコーダー」と呼ばれた)は、非常に重要な役割を果たしました。ウィンストン・チャーチルとフランクリン・デラノ・ルーズベルトの、大西洋を横断する通信の盗聴防止に使われたのです。
ボン大学の音声学科主任ベルナー・マイヤー=エプラー(Werner Meyer-Eppler)は、1948年にダドリーが訪れたのを機に、この装置を電子音楽に取り入れるという発想を得ました。彼は論文執筆の材料としてボコーダーを取り上げました。後に執筆されたこの論文が、ドイツで「電子音楽」ブームが起こるきっかけとなります。
1950年代になると、ボコーダーを使った録音がいくつか行われました。
1960年、ミュンヘンで「Siemens Synthesizer」が開発されました。これは数多くのオシレータやフィルタを組み合わせた装置でしたが、バルブ式のボコーダー回路も組み込まれていました。
1967年には、Sylvania社が、バンドパスフィルタを使わず、入力信号を時分割して分析するデジタル処理装置を数多く開発しました。
1971年、ボブ・モーグ(Bob Moog)とウェンディ・カルロス(Wendy Carlos)はダドリーの装置を研究したあと、当時数多く開発されていたシンセサイザーに改良を加えて独自のボコーダーを開発し、それは映画『時計じかけのオレンジ』のサウンドトラックに使われました。
ピーター・ジノビエフ(Peter Zinovieff)が創立したEMS社(ロンドン)は、単体で機能し、携帯性にも優れたボコーダーを開発しました。EMS社といえば、Synthi AKSやVCS3といったシンセサイザーが最も有名でしょう。そして、商業的に成功した世界初のボコーダーとなったのが1976年に発表された「EMS Studio Vocoder」です。これは後に「EMS 5000」と名付けられました。スティービー・ワンダーやクラフトワークが使用していました。ドイツ電子音楽の先駆者であるシュトックハウゼンもEMSのボコーダーを音楽に取り入れています。
Sennheiser社は1977年に「VMS 201」を発売し、一方EMS社は、EMS 5000の機能縮小版である「EMS 2000」を発表しました。
1978年になると、ハービー・ハンコック、クラフトワークなど少数のアーティストの曲で使われることで普及の波に乗り、ボコーダーの使用は主流になっていきます。この頃ボコーダーの製造を始めたメーカーには、Synton/Bode、Electro-Harmonix、そして「VC-10」を発表したKorgなどがあります。
1979年、Rolandは「VP 330」アンサンブル/ボコーダーキーボードを発売しました。
1970年代後半から1980年代初頭にかけて、ボコーダーは全盛期を迎えます。ELO、ピンク・フロイド、ユーリズミックス、タンジェリン・ドリーム、テレックス、デヴィッド・ボウイ、ケイト・ブッシュなど多くのアーティストが、ボコーダーを取り入れました。
その頃から(そして現在でも)、キット形式のボコーダーは電気店で手軽に買えるようになりました。
1980年代以降は、ボコーダーといえば、EMS(イギリス)、Synton(オランダ)、PAiA(アメリカ)の3社がまず挙げられます。
1996年には、Doepfer(ドイツ)とMusic and Moreが提携し、ボコーダーの共同製造を始めました。
1990年代以降は、「EVOC 20」のようなスタンドアロンの統合ソフトウェアボコーダーが次々と現れました。