Impulse Response Utilityのデコンボリューション
Logic ProのSpace Designerでは、オーディオ信号が音響空間のインパルスレスポンスと合成されます。この処理をコンボリューション(畳み込み)と言います。コンボリューションを行うと、インパルスレスポンスが再現する音響空間の中で鳴っているような響きがオーディオに加わります。インパルスレスポンスは、特定の物理空間における、信号スパイクに対する全反射音(反響)と考えることができます。インパルス・レスポンス・ファイルは、特定の空間で録音された、これらの反射音を含むオーディオ録音データです。
インパルスレスポンスの一般的な録音方法には、衝撃音測定法とサインスイープ測定法の2つがあります。
衝撃音測定法
衝撃音測定法では、スポーツ競技でよく使われるスターターピストルなどの装置を使って空間のインパルスレスポンスを録音します。発射音がインパルスとなり、録音するオーディオファイルにはそのインパルスとそれに対する空間応答(反響)が取り込まれます。
この方法の利点は、録音したオーディオファイルをSpace Designerでそのまま使用できることです。Impulse Response Utilityを使ってスターターピストルによるインパルスレスポンスを録音した後、すべてのトラックを結合してSpace Designerインパルスレスポンス(.sdir)ファイルとSpace Designer設定ファイルを生成できます。
この方法の欠点は、スターターピストルの発射音を、歪みのない理想的な状態で録音するのが難しいことです。これは、発射音の初期トランジェントが非常に大きいことによるものです。さらに、スターターピストルの発射音には高音と低音の周波数情報がほとんど含まれないため、生成されたコンボリューションリバーブで利用可能な周波数範囲が限定されるという問題もあります。
サインスイープ測定法
インパルスレスポンスの作成により好ましい方法は、サインスイープを使う方法です。広帯域のオーディオサイン波スイープを空間内で再生し、スイープ(とその空間応答)を最適なレベルで録音します。可聴帯域全体の周波数範囲を含むサインスイープを使用するため、広い周波数帯の、通常は高品質なインパルスレスポンスを作成できます。
録音したサイン・スイープ・オーディオ・ファイルは、そのままではインパルスレスポンスとして使用できません。録音ファイルには、サインスイープの長さにわたって空間に生じたあらゆる反射や反響、つまり応答が取り込まれます。ここが、応答全体がファイルの先頭の非常に短いインパルス(発射音)に含まれる衝撃音測定法とは大きく異なる点です。
サインスイープを使用するときは、Impulse Response Utilityを使ってデコンボリューション(逆畳み込み)と呼ばれる処理を行います。この処理では、サインスイープの長さにわたって録音されたすべての応答の時間とレベルが調整され、インパルスレスポンスがファイルの先頭にまとめられます。これにより、Space Designerに読み込んでオーディオ信号と合成(コンボリューション)できるインパルスレスポンスになります。そのあと、Impulse Response Utilityでインパルスレスポンスから.sdir設定を生成できます。
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Impulse Response Utilityユーザガイド: Apple Books